no KZ no life

講談社青い鳥文庫 KZ事件ノートシリーズを中心とした感想など。

【感想】①消えた自転車は知っている

 

※ねたばれあります。

KZ事件ノートシリーズ第1作目。

なぜ「知っている」というタイトルになったのかはわかりませんが、タイトルからストーリーを想像しやすくなっています。

「友愛クエスト」ってちょっとわかりにくいですもんね。

個人的には「友愛クエスト」のほうが好みですが。

とはいえ、もし旧作のようにタイトルがずっと「漢字2文字+英語カタカナ4文字」でいっていたら、途中でネタ切れになってしまっていたのではないかと思います。

カタカナは4文字でなくてもよければ、なつかしの「サスペンス」「ミステリー」「パラドクス」とかもありかも。

さらに英語でなくてもよければ「トルソ」とかね。

なつかしくて涙出ちゃいそうですが。

 

コバルト時代のタイトルはどれも秀逸で、好きでした。

「愛よいま、風にかえれ」とか。

漢字や仮名の用い方にも「粋」というか、センスを感じていました。

だいすきで、今でも聞くだけで切なくなってしまうのが「はるかなる君によせて」。

なんてすてきなタイトル!

なんてすてきな11文字!

11は素数

素数」と「素敵」って似てるよね。

 

閑話休題

アーヤとKZメンバーの出会いのお話です。

アーヤが若武の容姿を褒めている箇所が多いように思います。

出会いのときは

「まつ毛の長い、すごくきれいな目」(P.51、紙P.16)。

「丈の短い赤のウインドブレーカーが、よく似合っていて、カッコよかった」(P.54、紙P.16)。

中盤では

「その姿は、映画のヒーローみたいにカッコよかった。

へえ、若武ってスタイルいいんだ。」(P.239、紙P.80)

「そのとき初めて、私は若武の笑顔をまともに見た。

息が止まってしまうほど、きれいだった。

私は、一瞬見とれ、それからあわてて目をそらせた。

もっと見つめていたかったのだけれど、できなかった。

まぶしすぎて・・・・・・。」(P.261、紙P.87)

「うん、若武は、スタイルがいい。」(P.264、紙P.88)

 

おいおい書きますが、コバルト版の頃って、若武とくっつくとしか思えない状況だったんですよね。

私が思っていただけなのかもしれませんが、それにしたって表紙絵とか・・・

「初恋プロセス」にあって、「キーホルダーは知っている」でカットされた部分とか・・・

当時は、わかりやすいヒーロー(?)と恋仲になるというのが王道だったというか。

なので、若武とアーヤがくっつくのだと思っていました。

クラスの女の子からキーホルダーをもらった若武に独占欲っぽい気持ちになったりもしてたし。

他の3人よりあきらかに若武に心を動かされていた感がありました。

 

黒木君が、アーヤをナンパします。

これが、今(2021年夏)の黒木君からするとちょっと意外に感じられます。

女の子や女性に優しいけれど、必要性なくナンパをするとか、話しかけるとかっていうのは、あんまりイメージじゃないんですよねえ。

「バチンと音のしそうな大きなウインク」も。

ついでに言うと、アケミ、アツコは今の子には極めて少ない名前だと思う・・・ 当てる気あるのか。

ここ、「友愛クエスト」から変わってないんですよね。約20年・・・

 

上杉君については、「迎えに来たメガネの男の子」。

ええー。

それだけーーー。

まさかつきあうことになるとはね~・・・

 

アーヤの兄、裕樹に、ラブレターが届きます。

ここも友愛クエストから変わっていないのですが、2021年において、高校生ってラブレター出したりするものなのでしょうか。

裕樹氏は、スマホ持ってると思うんですよね。

LINEしてないとか、デジタルな連絡先はわからないけど家や住所等のアナログな連絡先は知っているとかなんでしょうか。

そっちのほうが考えられないような。

しかも「昨日の人とは、ちがうみたい」ってことは、出してる人も少なくとも2人はいるってことですよね・・・

あ、出してるほうの人がスマホないってこと?

 

「大人って、時々しか子どものこと見てない。

たまたま見たその時が、子どものいつもだろうって思って怒る。

その大事な『たまたま』に、私は、なぜかかならず失敗するんだ。」(P.90、紙P.31)

 

ここも友愛クエストと変わっていません。

私が友愛クエストを初めて読んだときに わかる! って思った文章です。

わかる! って思ったことはすごく覚えているのに、そう思った理由が全く思い出せないのが悲しい。

きっと私もそういう思いをしていたんだと思うんです。

なのに思い出せない。

やるせない気持ちを思い出せないのは、もしかしたら悪いことではないのかもしれないけれど、こういうところが大人になることのマイナス点なんですよね。

そして、大人なのにこんな文章を書くことができる先生の才能にますます感服します。

まあでも、仕事にも置き換えられるかもしれませんね。

上司は時々しか部下のこと見てませんから。

見てなくても、結果を出せば良いんですけど。

 

上杉君はこのときから「数の上杉」です。

かずのうえすぎ って、かずのり うえすぎ と似てるよね。

 

「背は中くらいで、少し太りぎみ」(P.159、紙P.55)。

小塚君、「少し太りぎみ」レベルなんですよ。

アーヤ主観なので詳細は不明ですが、そんな、デブってかんじではなさそうじゃないですか?

そのあとは「小太り」。

「小塚君は、うらめしそうに若武を見ながら、小太りの体を動かして」(P.284、紙P.95)。

 

上杉君と小塚君が三谷Cクラス。

黒木君と若武が三谷Bクラス。

黒木君と若武が同じクラスってちょっと意外です。なんとなく。

黒木君が特別クラスに入った理由は「欠席が多いから」?

そんな理由で入れるのかな~。

 

自己紹介のくだりでは、アーヤの強いところが出てます。

Upper Fileのアーヤとナチュラルにつながります。

意外と強い子、アーヤ。

考えてみれば、友だちゼロでも毎日学校行ってる小6女子って、だいぶメンタル強いですよね。

 

「『おい、若・・・・・・』

 言いかけた小塚君の声をドアの音が消し」(P.179、紙P.62)

小塚君が「おい」って言うの、意外です。

 

「『短気なのも、あいつの悪いとこだな。』

 上杉君がため息をついて、みんなを見まわした。

 『たとえ欠点が山ほどあっても、俺はおまえに一目置いてるって言おうとしてたのにさ。』

 黒木君が、上杉君の首にぐいっと腕をからませ、自分の胸の中に引きよせて言った。

 『ウソつけ。そんなこと、口が裂けても言わないくせに。』

 上杉君は、メガネのむこうで笑って、黒木君の胸をドンとたたいた。

 『お互いさまだろ。』

 黒木君もちょっと笑った。

 『まあな。』」(P.184、紙P.62)

ザ・藤本ひとみ先生!です。こういうの!

男同士のいちゃいちゃ、みたいな。(表現!)

マリナシリーズでもよくあったような?

そして、小6じゃないよね? は言わずもがな。

 

「本当に大事なことは、皆とうまくやることなんかじゃなくて、皆を好きになることかもしれないって、私は、その時、気づいたのだった。

 (中略)

 私が皆を好きになれば、それがきっと皆にも伝わる。

 (中略)

 皆を、好きになればいいんだ。そうすれば、きっと友だちだってできる。」(P.196、紙P.66)

こういうエッセンスのようなものが、たくさんちりばめられているんですよね、先生の作品って。

大人になってからも、そうか~ って思うこと、たくさんあります。

 

「私を見るとクスッと笑って体を起こし、腕組みをといた。

 『声明文、書く気になった?』

 大人っぽいその微笑みを見た瞬間、私は、やられたと思った。」(P.252、紙P.84)

若武の人心掌握術には舌を巻きます。

だって小6ですよ?

若武・・・ おそろしい子!

 

「黒木君はすぐ、いつもみたいにふっと笑って私たちに背を向け」(P.293、紙P.97)

このときはまだアーヤは黒木君にとっての「いつも」がわかる状況にはなかったと思います。

出会った日だしね。

ふっと笑うその仕方が、まるでいつもそうしているかのようだった、ってことでしょうか。

 

「『わかった!犯人は、頭が悪くて力のあるヤツなんだ。』

 黒木君が小塚君を見て、ちょっと笑う。

 『それ、おまえじゃないの。』」(P.303、紙P.100)

こういうのも意外なんですよね~。

黒木君こんなこと言うかな、っていう。

若武になら言うかもしれないけど、小塚君に、っていうのがまた…

 

「『俺んちの親って、おまえんちの親といつも親しくしてるけど、ホントは、すげえ意識してんだぜ。総合では、上杉さんとこのノリちゃんにだけは負けないでよって、いつも言ってるもん。』」(P.333、P.108)

上杉君ママだけじゃなくて、若武ママもそうなんだ。

性格が過激とも書かれています(P.387、紙P.123)。

上杉君ママとかぶる・・・

若武のおうちもこのころはお金持ちってかんじではなく(お手伝いさんのいるご家庭がマウンテンバイクで崩壊する経済状況とは思えません)、設定が定まっていなかったのであろうことが想像できます。

 

設定が定まっていなかったと言えば、

「『黒木が塗料の成分表を手に入れてきたんだけれど、僕、読めないんだ。塗料の種類が全部、アルファベットで。』」

これは小塚君の言葉。このあとです。

紙の本(2012年6月7日第6刷発行)だと

「『英語じゃないと思う。たぶんフランス語かドイツ語だ。君に読んでほしいんだ。君は、国語のエキスパートだろ。』」(P.221)

となっているのですが。

私の読んでいる電子書籍(2015年11月1日発行)では

「『黒木が言うには、ドイツ語だって。それで君に読んでほしいんだ。君は、語学のエキスパートだろ。』」(P.712)

となっているんです。

フランス語かドイツ語だ、ってなると、幼少のみぎりにフランスに住んでいたっていう黒木君の設定と矛盾しちゃうからですよね。

黒木君が見ているのならフランス語ではないことはわかるわけで。

黒木君の帰国子女設定は「シンデレラ特急は知っている」(2012年7月15日発行)が初出なので、それ以降に出た電子書籍では修正が入ったんだろうなあ。

紙の本も、シンデレラ特急以降に版を重ねたものは修正されているのでしょうか。

気になる。

明日本屋さんに行こうか・・・

 

上杉君が、勉強時間を確保したいっていう主張をするのって、この作品内だけのような気がします。

その後には出てきていないんじゃないかな。

それほどKZ活動に魅力を感じたのか、彼の中で勉強時間との折り合いがついたのか、それ意外か。

 

黒木君が、遅いから送っていこうかとアーヤに言います(P.401、紙P.126)。

小6・・・ というのはちょっとお休みするとして、アーヤと歩く道中、ほとんどしゃべらなかったっていうじゃないですか!

黒木君って、そうなんだ・・・

そんなにすごくおしゃべりはしないだろうけど、だからってほとんどしゃべらないなんて、ちょっとびっくりしました。

まだ親しくなってないからかなあ。

 

アーヤ(と奈子)の部屋に、電話の子機があるっぽいです。

若武から電話がきたときにママに「部屋で出るから」って言ってるし(P.424、紙P.135)、そのあと

「部屋に入るなり急いで受話器を取って」(P.428、紙P.136)ってあるし。

最近の本だと、アーヤ、いつも階段を降りたところにある電話でこそこそ話してる印象だったので、驚きました。

男子からの電話多すぎて部屋の電話は取り上げられたんですかね?

いつから部屋に電話なくなったのか気になってきました。調べようかな。

 

「『機嫌なおせよ、アーヤ。』」(P.472、紙P.150)

「『アヤとかアヤコとかって女の子は、たいていそう呼ばれてるよ。アッちゃんとかね。』」(P.475、紙P.150)

アヤもアヤコもまわりに何人かいますが、アーヤって呼ばれてる人は知らないなあ・・・

だいたい「アヤ」か「アヤちゃん」じゃないですかね。

ましてやアッちゃんって、それこそアツコとか、アキコとかがそう呼ばれている実例は知っていますが・・・

 

「『まず全員の中から、犯行時間の17時5分から21時 3分の間に、完全なアリバイをもっているヤツをのぞいた。秀明で授業中だったヤツとか、部活で学校にいたヤツとか、家にいてずっと友だちと電話してたヤツとか。2人以上の目撃者を持ってる人間だけをシロにした。』」(P.489、紙P.155)

家にいてずっと友だちと電話してた人に2人以上の目撃者がいるってこと、ある?

いたとしても家族では。

家族によるアリバイ証言は証拠にならないって言うけど、この場合は法的なことをどうこう言ってるわけじゃないから、まあ良いのかなあ・・・

 

「私は、すべてが自分の考えすぎであってくれることを祈りながら、秀明の名簿を出し、三谷Bクラスのところをめくって若武の名簿を探すと、急いでプッシュホンを押した。」(P.879、紙P.270)

「友愛クエスト」のときは気にならなかったのですが・・・

名簿って、今は、ないですよね・・・

しかも自宅の電話番号が載ってるのなんて・・・

青い鳥文庫で出すにあたって直さなかったのかなあとも思うけど

アーヤが若武に電話 → 確信 → ひとりでビバリーヒルズに行く

っていう流れにならないといけなかったから、この部分は削れなかったのだろうなとも思います。

弟がいる若武の家に電話して「若武君、いらっしゃいますか?」はどうなのかなあ。

不思議とお母さんには通じてたけど。

若武と同じマウンテンバイクをほしがる弟なので、歳もそんなに離れてはいないんじゃないかという予想。

 

若武危機一髪!なシーンは、どきどきです。無事でよかった!

読後感もさわやかで明るくて、シリーズ第1作目として、とても良いと思います。

表紙イラストでは、上杉君の扱いがちょっと・・・ です。

 

【考察】

 

・時期は小6の4月で、一週間のできごと。

登校しているので春休みではなく、4月の2週目か3週目ぐらいではないかと推測します。

「『今度やるのは、1日の金曜日だ。それまでに車が直ってくるからな。』

 上杉君が、教室の壁に貼ってあるテスト日程表をチラッと見た。1日が金曜日になっているのは、5月だけだった。」(P.837、紙P.259)

「この一週間、怖い思いもたくさんしたけど、でも毎日が刺激的で、ワクワクした。」(P.923、紙P.283)

 

・小塚君は「少し太りぎみ」「小太り」。

イラストでは全然太っていません。他のメンバーと同じかんじの体型。

 

・目をパチパチ:1回

「小塚君は、目をパチパチし、となりで若武が首をひねりながら腕を組んだ。」(P.305)

これには疑義があって、電子書籍ではパチパチしてるんですけど、紙媒体だと

「小塚クンはブッとふくれて横を向き、となりで若武が首をひねりながら腕を組んだ。」(紙P.100)

となっているんです!

ここは前述の

「『わかった!犯人は、頭が悪くて力のあるヤツなんだ。』

 黒木君が小塚君を見て、ちょっと笑う。

 『それ、おまえじゃないの。』」(P.303、紙P.100)

の続きなのですが。

ここは小塚君、怒るべきだもんね。

目をパチパチだと、なんとなくいじめられてるみたいだから変えたのだろうかと推測しつつ、疑義ありながらもカウントします。

 

・ヒュッと口笛:1回

「黒木君が、ピュッと高い口笛を吹いた。」(P.364、紙P.117)

こちらもカウントしてよいものか迷うところではありますが、いちおうカウント。

1作目なので、ヒュッ も ピュッ も 変わらないってことで。

 

・コクン:7回

「私は、コクンと息をのんだ。」(P.49、紙P.15)

「私は、コクンと息をのんだ」(P.88、紙P.30)

「私は、コクンと息をのんだ。」(P.217、紙P.72)

「私のとなりで小塚君も、コクンと喉をならす。」(P.460、紙P.145)

「私はコクンと息をのんだ。」(P.568、P.178)

「私たちは、いっせいにコクンと息をのんだ。」(P.767、紙P.238)

「私は、コクンと息をのんだ。」(P.881、紙P.270)

めちゃ多い。

まさかこんなにコクンと息をのんでいたとは!

 

・ドアホン:1回

「ドアホンからママの声がひびく。」(P.421、紙P.133)

 

・「君」と「クン」

電子書籍では「君」、紙媒体では「クン」、コバルト版(友愛クエスト)では「クン」です。

黒木君 か、黒木クン か、って、大きな違いではないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとってはけっこう違うんですよね。

なんというか、どちらを使うかでアーヤから受ける印象が違う。

 

・紙媒体と電子書籍

気づいただけでも相違箇所がけっこうありました。

コバルト版との違いだけではなくて、紙媒体と電子書籍も違うことが今回わかりました。

君 以外にも、漢字や平仮名の表現が時々違うんです。

照らし合わせて読むということは今回はしなかったので細かくはわからないのですが、いつかきちんと調べてみたいような、みたくないような・・・