【感想】D③いつの日か伝説になる
※ねたばれあります。
KZ Deep File 3作目。
舞台は夏。上杉君の友情物語であるとともに、黒木君の過去、出生の秘密が明かされます。
上杉君の友情は黒木君とのものだけではなく、黒木君の友情も上杉君とのものだけではない。
大人の夏休みの課題その3。
「肩を抱く」が多かったです。
少年たちが肩を抱いたり叩いたり抱き寄せたり小突いたり、なんかめっちゃ多かったです。
なつかしの「甘やか」も何度か。
「『最近の失敗は、この春、穴に落ちて全身十二ヵ所を骨折した事』」(P.32、紙P.33)
「桜坂は罪をかかえる」ですね。
怪我の多さに、カズマシリーズを思い出しました。
「『じゃ俺も、降りるよ』
瞬間、黒木に胸元を掴み上げられる。
『おまえ、嫌がらせか』
そんなつもりじゃないと言いそうになり、そこに滲んでいる黒木の本音に気がついた。これって、嫌がらせになってる訳か。思わず笑みが零れる。
『あ、俺に帰られたくないのね』
黒木の目に、焦りが浮かぶ。その縁が、わずかに赤く染まっていた。」(P.48、紙P.52)
黒木君の感情が見える作品です。
赤くなる黒木君。かわいい。
怪奇現象や都市伝説に興味を示したり。
荒々しさを見せたり。
「『Kのため、かよ。笑わせんな。人殺しにカッコつけてんじゃねぇ』」(P.137、紙P.150)
言葉遣いが、上杉君のようです。
上杉君の胸で泣いたり。
かわいいでは片づけられない深い苦悩があってのことなのですが、感情を見せられるようになって良かったというか、上杉君がいてよかったな っていう。
上杉君の存在にとても救われたと思います。
ここの部分は、切ない。
読んでいてつらい。泣きます。
上杉君と同じ気持ちになります。
「泣いていいよ」「お前に、何をしてやれる」が良かった。
良い男になってるよね。上杉君。
「健斗に届け、俺の気持ち」(P.139、紙P.153)もかわいかった。
今作では、上杉君の不器用さがいつもより控えめで、素直なところが見られるような。
黒木君に必要とされてる俺にほくそ笑む上杉君、みたいなのが何回か出てきて、笑ってしまった。
さっき泣いたくせに、にも笑った。
私の胸でも泣いてー。
黒木君が、小塚君を大事に思っていることも感じられます。
「『きさま、小塚に何をやった』」(P.136、紙P.150)
「『小塚を安心させてやろう』」(P.141、紙P.155)
「『ショック症状が出て、心肺停止までは約十五分だ。もし小塚がそんなことになったら、』
(中略)
『そうなったら、俺は小林を警察に突き出すからな。お前が何と言おうと、だ。覚えとけ』」(P.135、紙P.148)
「和典は部屋に戻り、バックパックにポケットから三角定規を出す。赤い屋根のサイズを測り、目算で距離を出して実物サイズを想定した。」(P.97、紙P.105)
「切られたページは知っている」「卵ハンバーグは知っている」でもありました。相似。
私、生活していて相似を使ったことっていまだかつて一度もないのですが、上杉君は少なくとも3回は使っている。
三角定規を常備していることからして、日常的に相似を活用しているんでしょうね。
数学を意識して生きているか否かの違いでしょうか。
「『ああアクチュアリーという手があったな』
思わず舌を巻く。企業の象徴的存在として、村上の毎日は多忙だろう。その中で、微細なジャンルであるアクチュアリーまで知っているのは、さすがだった。」(P.105、紙P.115)
「『確か、今の明治生命の社長がアクチュアリー出身だと思った。』」(P.106、紙P.116)
三住財閥のモデルはおそらく三菱財閥だと思うのですが、だとしたらグループ内に保険会社もあるし、アクチュアリーは知ってるんじゃないかと・・・
住友や三井がモデルだとしたらなおさらですね。
明治生命は現在は明治安田生命で、発行当時もすでに明治安田生命だったはずですが、村上氏が明治安田と言わなかったのは、安田を入れたくなかったのかなあと邪推したり。
合併に反対していたとか?
それにしても、金融系の理系出身社長人事ネタ、よく出てきますね。
それも、現実に即したやつ。
「数学者の夏」でも三菱UFJ銀行のことが出てきていました。
先生の気になる分野なのかな。
「『オッケ。お休み、BB(ベベ)ちゃん』」(P.148、紙P.162)
コバルトでありそう。
さくらんぼ聖書の主人公のニックネームがベベだったはず。
イツキが言いそうです。実際に言ってるかも。花織シリーズは詳しくないので本を調べてみないとわかりません。
上杉君は黒木君のこと女たらしって言ってるけど、女たらしというより人たらしだと私は思っています。
「『おまえ、ジャワ原人(ホモ・エレクトス)じゃあるまし、裸で寝るのはやめろ』
(中略)
『いつもはちゃんとパジャマ着用だ』」(P.149、紙P.163)
えぇっ!? ですよ。
「シンデレラの城は知っている」でいつもパジャマ着ないで寝てるって言ってたよね!?上杉君!
「シンデレラ特急は知っている」でバスローブ着て部屋から出てきたよね!?黒木君!
バスローブで寝ることはないわけだから、黒木君は裸で寝ているにちがいないと思ってたんだけど、ちがうの?
1年の間に変わったんですかね、睡眠時のスタイル。
それともアーヤの前でかっこつけてただけ?
「和典は、やはり睫毛の長い同級生を思い出した。カーブし、先が上がっていて愛らしい。今頃どうしているだろう。」(P.168、紙P.183)
「好きな子はいるが、打ち明けていない。機会がないからだったが、それを作ろうとも思っていなかった。」(P.176、紙P.192)
まだアーヤとはつきあっていないようです。
「『君の味わった苦痛は、価値のあるものだよ』
健斗は驚いたように、こちらを見た。
『その痛みを知ったからこそ、できる何かがあるはずだし、そういう力を持った君になったんだから自分を投げ捨てちゃだめだ。』」(P.208、紙P.225)
小塚君の言葉ですが、「オンディーヌの聖衣」の中でユメミがルスカに言った言葉と似ていると思いました。
たしかこんなかんじのことを言っていたように記憶しています。↓
「ルスカ、ねえルスカ、痛みや苦しみを知っている心は美しいと、私は思うわ」
記憶なので正確ではありませんが、印象深い言葉で、時々思い出します。
若さを失い、汚れを知ってしまった自分にはもう価値はないと言ったルスカに、ユメミの言った言葉。
ルスカと健斗の状況も似ているように思いました。
きっと先生が重視していることなんだと思います。
それにしても黒木君の知識がすごすぎるんですよ。
「『こういう特徴を持つ布は、俺が知っている限り、仙台平だけだ。仙台で作られる絹織物で、最高級の袴を作るときの生地に使われる。』」(P.244、紙P.264)
「『これは孫文。建物は北京にある天壇。それぞれ中華民国の五元札に使われている透かしだ。絹を梳きこんだ紙も、中国の五元札の特徴』」(P.247、紙P.268)
「『スマトラ新聞って、愛好家の間で幻の邦字新聞って呼ばれてる奴じゃないかな。戦時下にスマトラ島パダンで発行されてたらしいんだけど、現物が残ってないんだ』」(P.251、紙P.272)
特別クラスで社会を勉強していたと書いてあったので社会が苦手なのかと思ってたんですけど、むしろ得意なんじゃ・・・
もしや若武系?得意分野を勉強するっていう。
「『アスベストは、一日でも早く処理しなければならない問題でしょう。僕は放置しておけない。新聞社かテレビ局に通報するつもりでいます』」(P.263、紙P.284)
やっぱり若武系か。
「『君たち若者が持つ快活さと真摯さ、繊細さ、どんな事にも真っ直ぐに向かっていく妥協のない気持ちは、今後いつの間にか消えていき、二度と戻ってこないものだ。輝くような今の時間を大切にするといい』」(P.271、紙P.294)
本当にそうなんですよね。
こういうことを言ってくれる人がいるというのはとても幸せなことだと思います。
素直に聞けるかどうかという問題もありますが。
若さって、自分の若さに自覚がないこと なんじゃないかなあと私は思っていて。
というか私がそうだった。
自覚がなく、ずっとこのままいくと思ってました。浅はかで愚かでした。
それにしても、Kのため、って。
Kって、国家のK・・・
思いっきり日本語じゃないか・・・
黒木君は、革命のKだろ、なんて言ってたけど、それもねえ。
革命ならRにしてほしい。
もしも黒木君のお父さんが村上氏なら、黒木君と健斗は親戚になるということに気付きました。
【考察】
・時期は中2の夏休み。
探偵チームKZは活動中みたいです。
「『KZっていうチームを組んで遊んでんだ。謎解きがメイン。学校側からは、犯罪者集団って呼ばれてるけどな』」(P.240、紙P.260)
「目の手術をしてから一年以上が経っていた。」(P.115、紙P.124)
若武は膝の再手術をしていて不在。
上杉君とアーヤはまだつきあっていない。
・ヒュッと口笛:1回
「熱心に見ていた黒木が、尻上がりの口笛を吹く。」(P.247、紙P.267)
ヒュッじゃないけど。
・ドアホン:5回
「一番後ろからやってきた運転手がドアフォンを押すところを見ている。」(P.57、紙P.61)
「和彦は玄関に回り、その家のドアフォンを押す。」(P.86、紙P.91)
「大林洋子と手書きされた紙の表札を確認してからドアフォンを押した。」(P.116、紙P.126)
「ドアフォンを押す。」(P.166、紙P.181)
「歩みよってドアフォンを押す。」(P.266、紙P.289)
「ドアフォン」でしたが、5回。
・甘やか:2回
「黒木は、甘やかな曲線を描いた唇に笑みを含む。」(P.19、紙P.19)
「唇には甘やかな笑みが浮かんでいたが、その目は笑っていなかった。」(P.42、紙P.45)
気になったので数えてみたら2回でした。
どちらも黒木君に対して使われています。
・肩:15回
「腕を伸ばし、和典の肩を引き寄せて耳にささやく。」(黒木君)(P.15、紙P.14)
「そう思いながら歩き出そうとすると、肩を抱き寄せられた。」(黒木君が上杉君を)(P.18、紙P.17)
「健斗が肩を小突く。」(上杉君を)(P.36、紙P.38)
「苦々しげに目をやる黒木の肩に手を乗せ、軽く叩いてから二人の方に向かった。」(上杉君)(P.50、紙P.54)
「健斗が、その気持ちはよくわかると言いたげに肩を叩く。」(小塚君に)(P.65、紙P.70)
「上げた片手を和典の肩に置き、一瞬、握り締める。」(黒木君)(P.67、紙P.73)
「熱烈な視線を送って立ち止まろうとする小塚の肩を引き寄せる。」(上杉君)(P.69、紙P.75)
「妙に胸が騒ぎ、和典は健斗の肩を抱き寄せる。」(P.70、紙P.76)
「黒木は、近くにいた小塚の肩を抱き寄せる。」(P.104、紙P.113)
「ホームに滑りこんだ電車から飛び出し、乗り換え通路の方に行こうとすると、後ろから黒木が肩を掴んだ。」(上杉君を)(P.135、紙P.148)
「黒木の手が伸び、和典の肩を抱き寄せる。」(P.142、紙P.155)
「こいつ、意外に悪だと思いながら、拳で黒木の肩を小突く。」(上杉君)(P.143、紙P.157)
「黒木は笑い出し、和典に肩をぶつけた。」(P.143、紙P.158)
「黒木が降りてきて肩を抱き、和典の体を百八十度回す。」(P.153、紙P.168)
「和典が気を揉んでいると、やがて黒木に肩を抱き寄せられた。」(P.257、紙P.279)
肩をすくめるとか、1人でする動作についてはカウントしていません。
もうこれは、私の中では「少年たちが肩を抱き寄せあう物語」です。